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望郷星85
「略奪された方は愛する力が無かったから悪いのですよ」と彼女は言い切った。
場の雰囲気が白けるのを覚悟の上で僕は反論した。
「でも略奪する方はそれで満足かもしれませんが、略奪された方は堪ったものではありませんよね」
彼女が冷静な面持ちで答える。
「いえ、略奪された方が悪いのですよ」
僕は目くじらを立てて言った。
「例えばそれで略奪された方が自殺しても悪いと言うのですか?!」
頬を上気させている彼女が穏やかな口調で言い切った。
「ええ、略奪された方は愛されていなかったのだから、悪いと思います」
僕は強く念を押した。
「死んでも悪いのですか?」
彼女が冷徹そのものに言った。
「悪いと思います」
僕は憤りを込めて尋ねた。
「何故そんな事が言い切れるのですか?」
彼女が動じる事もなく言った。
「略奪された方は愛する力が無かったから悪いのですよ」




