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望郷星82
「好きになってはいけない。それが本心だ」と自己洞察瞑想をする僕の自問自答に、表層意識は答えた。
自己洞察瞑想をしながら僕は己の潜在意識及び無意識の部位に心眼を向けた。
まず睡眠欲、食欲、性欲の三大本能的欲望を階層を下り貫くように素早くやり過ごし、もう少し上位の恋愛部位に心眼を向けると、その心眼が無意識及び潜在意識の部位から唐突に弾かれ、外に出されてしまった。
己の本心は潜在意識、無意識の範疇にあるのだと僕は自分に言い聞かせ、その本心を明かそうと、弾いた無意識に再度練り上げた心眼を捩込むと、無意識の部位にある自己保存本能が又してもその意向を弾き返した。
そして僕は自己洞察瞑想で無意識に語りかける所作を中断して、独りごちるように表層意識に語りかけた。
「お前は成美ちゃんが好きなのか?」
僕の表層意識は答えた。
「成美ちゃんは村瀬の恋人だから好きになってはいけないのではないのか」
「本心を言え?」
「好きになってはいけない。それが本心だ」




