望郷星79
「自分の素直な恋心を友情の為に犠牲にすれば、心が屈折して、無意識の部分でその友情は憎悪に変換されてしまいますよね。恋心と言うのは一番強い情念だし…」と彼女は突っ込みを入れて来た。
カウンターバーに移動しても彼女は執拗に成美ちゃんの事を尋ねて来る。
「その成美ちゃんという女性の心を振り向かせる為に貴方は何かしらのアプローチをしましたか?」
僕はアルコールで理性を失わない為に水を飲みながら答えた。
「いえ、友達の彼女ですからね。そんな事をしたら友情を損なうじゃありませんか」
すかさず彼女が突っ込みを入れて来た。
「貴方は自分の心に嘘をついていませんか?」
僕は再度うろたえつつ答える。
「い、いえ、僕は嘘なんかついていませんよ」
彼女が好奇心丸出しの目付きをして再度尋ねて来た。
「ならば何故そんなにうろたえるのですか。恋心に素直にならないと、心の問題を損なって心は荒むではありませんか?」
僕は態勢を立て直し照れ隠しをするように反論する。
「いえ、だから僕は友達の恋人なんか絶対に好きにはなりませんから」
彼女が悪女じみた微笑みを頬に湛え言った。
「自分の素直な恋心を友情の為に犠牲にすれば、心が屈折して、無意識の部分でその友情は憎悪に変換されてしまいますよね。恋心と言うのは一番強い情念だし…」




