望郷星71
「当然そうなりますね。人間は三次元の中の生き物で、次元の異なる世界があると物理的数学的な机上の計算は出来ますが、それを肉体的に見聞きするのは、三次元的存在であるが故に不可能ですからね」と彼女は言った。
僕は内心考える。
彼女が鮫に食われたいと願った少女や成美ちゃんの化身の場合、それが一体何を意味するのかを。
瞑想装置としての村瀬に完全に成美ちゃんや少女が取り込まれているのならば、そこには全うき悪意しかなく、成美ちゃんが人間存在としての心を持っているならば逆に悪意は無いという理となる。
悪意が無ければ何かしらのメッセージを僕に送るのが目的なのか。
その辺りの思惑を内に秘めながら僕は彼女との会話を慎重に継続して行く。
「そうですね。多次元宇宙論に鑑みれば、異なる次元に在っては時間の流れは、計算上流れていないと考えた方が至って常識的だし、輪廻転生や異なる世界への転位はあくまでも三次元世界での理となりますかね」
彼女が微笑み言った。
「逆に言えば、これはあくまでも相対性理論をものした物理的な話しのカテゴリーですから、私には多次元宇宙の時間が止まっているかどうかは、見聞きする事は出来ず、あくまでも知識としての三次元的な捉らえ方しか出来ないので、時間は止まっているかもしれないし、止まっていないかもしれないと言う事しか、個人的には言えません」
僕は尋ねた。
「つまり人間の英智では多次元宇宙を知るには限界があると言う事ですか?」
彼女が答える。
「当然そうなりますね。人間は三次元の中の生き物で、次元の異なる世界があると物理的数学的な机上の計算は出来ますが、それを肉体的に見聞きするのは、三次元的存在であるが故に不可能ですからね」




