望郷星64
「いえ、私にすれば死んだ旦那は錦鯉みたいなものですね」と行かず後家の彼女は言った。
丸い感じの女性。
それが僕の行かず後家に対する第一印象だった。
何か一緒に話しをしていると安心出来る。
それは年齢が僕よりも七歳上なので、僕に母性愛を感じるのか、当たりが優しくつんけんしていない分僕はそう感じたのかもしれない。
当然僕は自分の正体を隠して彼女に尋ねた。
「酒は飲めますか?」
その言葉を聞き彼女が答える。
「ビールは飲めませんが他のものならばたしなむ程度には」
僕は破顔して言った。
「それはいいですね。会って直ぐに不謹慎なのかもしれませんが今度飲ましょうよ?」
「ええ、構いませんが、でも今からでも私は構いませんよ」
僕は喜び、それを慎むように言った。
「いや、それは勘弁して下さい。母が知ったら又あんたは酒かよと叱られるので」
その言葉を聞き、彼女が高笑いしたので、その気さくさが益々気に入り僕はぶしつけな質問を重ねた。
「未亡人になると、やはり旦那さんの事をやたら美化するものですか?」
彼女が答える。
「いえ、私にすれば死んだ旦那は錦鯉みたいなものですね」
僕は尋ねた。
「錦鯉と言うと?」
「錦鯉は表面上綺麗ですが鯉には変わりありませんから」




