望郷星62
「酒の席だ。まあそんな堅い事は抜きにして大いに飲み明かそうではないか?」と田村は僕に向かって言った。
僕は母から金を借りて、田村に連絡をとり居酒屋で落ち合い、見合いをするという顛末になった事柄を報告すると、田村は面白がりいみじくも答えた。
「いいではないか。この世界はアガティスの葉の唐突な予言成就はなさそうだし、それに時間概念が単一ではなく流れている二元論の世界であり、お前の望む永遠の母親はいないが、後は全て俺達が慣れ親しんだ現実世界と同じなのだから、その分母親の愛情に甘えて束の間の幸福感を味わうのも悪い話しではないと思うぞ」
煙草をくゆらしライムサワーを味わうように飲んでから僕は田村に言った。
「見合いをすればいいと言うのか?」
ほろ酔い状態の田村がハイボールを飲んで愉快そうに笑い言った。
「そうだな。この世界には唐突なる次元転位もなさそうだし、思う存分母ちゃんのおっぱい吸って、見合いを楽しみ、切りのいいところで吊橋に戻り連鎖継続している宿命に準じてジャンプすればいいではないか。と言うかこれは言わば戦士の休息であり、次なる戦いへのステップ保養と考えればいいではないか?」
僕は頷き言った。
「分かった。ここはお前の言う通り母さんに甘え、見合いを大いに楽しむ事にするわ。ところで次会った時でいいのだが、俺とお前のカオスの坩堝に於ける記憶の欠落部分を角突き合わせ話し合って、現状の状態を的確に分析したいのだが、どうだろう?」
顔を赤らめた田村がハイボールを一気に飲み干し答える。
「酒の席だ。まあそんな堅い事は抜きにして大いに飲み明かそうではないか?」
僕は微笑み答えた。
「分かった。大いに飲もう」




