望郷星6
「それは十中八九間違いない事実だと思う。村瀬はお前の同時多発的存在理由の無限大増殖を抑え、完成された瞑想装置への帰依を疎外して絶対死に追い込もうとしているのだ。お前の心の隙を突いてな」と田村は言った。
徐々に身体が衰弱して行くのを防ぐように、田村が意識を集中する呼吸法を繰り返しながら言った。
「どうやら、これも僅少だが息を吐き出す時に意識を集中する清浄法は使えそうな塩梅だな。それでも少しずつ衰弱する事に変わりはないが、呼吸法を使わないよりは使った方がまだ増しだな…」
僕も身体の重さ、だるさに辟易としながら尋ね返した。
「しかし俺達はお互いに仙道で言うところの陽神体ではないか。陽神は同時多発的に二カ所で二つの肉体感覚を体感出来るのが、宇宙を蔓延出来る存在理由になっているのに、この無人島では、その無限大とも言える増殖力が疎外されてしまって、衰弱し絶対死に近付いているならば、やはりこれは村瀬の仕掛けた罠の可能性が大と言う事か?」
喘ぎつつ息を吐き出し身体を浄化させる呼吸法を駆使しながら田村が答える。
「それは十中八九間違いない事実だと思う。村瀬はお前の同時多発的存在理由の無限大増殖を抑え、完成された瞑想装置への帰依を疎外して絶対死に追い込もうとしているのだ。お前の心の隙を突いてな」
僕は身体のだるさを抜くように吐く息に意識を集中しながら尋ねる。
「俺に出来た心の隙とは何だ?」
田村が答える。
「母親を慕う気持ちさ。尤もそれに便乗してしまった俺にも心の隙は出来てしまい、その結果としての情けない女の悲鳴探しなのだがな」
僕は力無く苦笑いしてから言った。
「しかしあの金属音のような悲鳴は成美ちゃんのものなのだろうか?」
田村が答える。
「水中でも聞こえるし、この忌まわしい無人島の中でも聞こえるのだから、その同時多発性を鑑みると、どう考えても成美ちゃんしかいないではないか。違うか?」
「それはそうだが、成美ちゃんはあんな金属音のような悲鳴上げないだろう?」
田村が僕の言葉を馬鹿馬鹿しいもののように退け言って退けた。
「金属音だから成美ちゃんの悲鳴なのさ」