望郷星59
「そうそう、あんたは狐の嫁さんに化かされながら結婚して、おいなりさんでも食べていればいいのよ」と母さんは言った。
食事を摂り終わり、僕はしみじみと言った。
「俺は結婚とか出来ないよ。母さんの手作り料理じゃないと口が合わないしな」
母さんが又しても大笑いしてから言った。
「あんたには味覚が無いのだから、結婚するお嫁さんの料理が私の手作り料理に変身するから大丈夫よ、平気、平気」
僕は自嘲ぎみに笑い言った。
「しかし料理は問題無いにしても、俺にはどうしても好きな女性とか出来ないし、やっぱり俺はマザコンなのかな」
母さんが食器を後片付けしながら鼻を鳴らし笑って言った。
「大丈夫、大丈夫、あんたの母親はお酒に煙草だし、その嗜好品は私のおっぱいよりも美味しいから、ちっともマザコンじゃないし、母さん少しも心配していないわ」
僕は掛け合い漫才を楽しむように話しかける。
「母さん俺がもてないの知っているじゃないか。俺にも母さんのような強くて優しい女性が嫁いでくれるかな?」
「大丈夫よ。あんたには酒の精が酔わしてくれている内に夢心地のまま、狐の嫁入りがあるから、心配ないわ」
僕は心置きなく笑い言った。
「ひでえな。母さん、俺の嫁は狐かよ」
母さんが言った。
「そうそう、あんたは狐の嫁さんに化かされながら結婚して、おいなりさんでも食べていればいいのよ」




