望郷星58
「それは母さんの腕がいいからじゃないでしょう。あんたには味覚というのはないし、何でも美味しく感じる馬鹿舌だから、母さん楽なのよ」と母さんは言った。
話しの最中僕は空腹を訴え、母さんが即席で作ってくれた手作りの料理を食べながら言った。
「母さんの料理はいつ食っても最高だな」
母さんがすかさず僕を茶化す。
「それは母さんの腕がいいからじゃないでしょう。あんたには味覚というのはないし、何でも美味しく感じる馬鹿舌だから、母さん楽なのよ」
僕はがっつくように食べながら一声笑い言った。
「母さん、俺に味覚が無いと、俺が小さい頃から思っていたわけ。それって母さん随分と楽していたのだなあ、違う?」
母さんが頷き臆す事もなく言った。
「そうそう、楽チンだったわ。あんたを息子に持った事料理作りながらいつも感謝していたのよ、母さん」
僕は渋面を作り言った。
「ひでえな、その言われようは」
「あらいいじゃない。事実なのだから」
僕は料理をみるみると平らげて行き言った。
「でも母さん、俺は居酒屋で食べる料理とか美味いと感じるし、味覚オンチというのは無いと思うんだよな」
母さんが事もなげに言った。
「居酒屋の料理は誰だって美味しいと感じるじゃない」




