望郷星53
「俺はアガティスの葉の予言に蹴られて、生きているのか死んでいるのかどちらなのだ?」と僕は田村に尋ねた。
僕は飲んでいる酒の中で横たわりまどろむように尋ねた。
「俺はアガティスの葉の予言に蹴られて、生きているのか死んでいるのかどちらなのだ?」
田村が赤いカウンターの上で声を美しい波紋にして広げながら答える。
「ある次元では生きているが、それに隣接している他の次元では死んでいると言ってよいだろう。言わば無限複合型生死の分離状態にあるから、生きているのかと問われれば死んでいると答えられ、死んでいるのかと問われれば、生きていると答えるしかないと思う」
僕は蹴られたビー玉として泣き笑いの表情を浮かべてから答える。
「ならば俺は生きているが死んでいる人間存在で言えば半死半生の状態なのか?」
田村が答える。
「人間存在としての括り方はこの状況では出来ないと思う」
「ならば俺は今何処にいるのだ?」
田村が答える。
「存在としては全ての次元を跨いで存在するが、お前の単一型の陽神の意識は吊橋の上で飛び降りるかどうかを迷っている状態だろう」
僕は酒を啜り飲み、それを不条理な複眼で傍観しながら低い声で尋ねる。
「飛び降り、その結果全次元で死ねば、俺はアガティスの葉の予言がもたらす絶対死を迎えるのか。それにしては妙に気持ちが安らいでいるが、これはどういう事なのだ?」
田村がビー玉として相手の言葉を賛美する半回転をしながら答える。
「絶対死を迎える者には最初安らぎが与えられるのさ」




