望郷星5
「身体が水濡れしていないぞ」と田村が言った。
砂浜に上がった田村が呼吸を調えてから言った。
「身体が水濡れしていないぞ」
田村の言葉を聞いて僕は驚きの眼差しを自分の手の平に向けながら答える。
「そうだな。水濡れしていないな。ならばやはりこの海は暗黒の宇宙空間なのか?」
田村がしばし黙想してから言った。
「俺がいた外宇宙への移動瞑想は誰かが妨害して出来ないな。だから俺達は囚われの身と言ってよいだろう」
僕は訝り尋ねた。
「この不可思議なる海が俺達を捕らえる檻の役割を果たしたと言うのか?」
「多分そうだと思う。そして俺達はこの無人島クエッションにいる限り身体が衰弱して行き絶対死に近付くのは間違いないようだし、海に入れば、その衰弱は止まるが、即鮫の餌になる定めが待ち受けているわけだ」
僕は又ぞろの身体のだるさを感じながら言った。
「正しく四面楚歌ではないか?」
砂浜をゆっくりと歩きながら田村が否定する。
「いや、終止符を打つ事はいずれにしろ簡単だろう」
僕は目くじらを立てて尋ねた。
「どうやって終止符を打つのだ?」
田村が他人事のように無機質な口調で答える。
「俺達は囚われの身だからな。長いスタンスならば、この無人島をさ迷っていれば絶対死するだろうし。短いスタンスならば海に潜水して鮫の餌食になれば済むわけさ。その選択肢の内お前はどちらを選びたい?」
僕はやる瀬なく顔をしかめてから答えた。
「無人島をさ迷いながら、あの悲鳴の正体を探ると言うのはどうだ?」
田村が眼を細め島を一瞥してから言った。
「とりあえず長いスタンスを選択するのだな?」
僕は頑固者そのままに口をへの字に固く閉ざしてから言った。
「そうだ」