望郷星49
「俺には確かに聞こえる。この足音は俺を蹴る為に誰かが近付いて来る足音だ。助けてくれ、田村!」と僕は灯台の中で叫んだ。
不気味な静けさの中、僕等は牛歩さながらの呈で恐る恐る何とか灯台へと辿り着いた。
灯台を迂回して風に揺れる吊橋に差し掛かったところで、後ろを歩いていた田村の姿が忽然と掻き消えた。
僕が心細さと恐怖心に田村の名前を呼び続けると、僕は己の声に全身を吸い込まれ、そのままバラバラに細胞分裂して無重量状態を漂うように平行移動し灯台の壁をいともたやすく抜け、集合して記憶に倣うようにビー玉に変貌した。
薄暗い牢獄としての灯台に先に捕らえられた緑のビー玉としての田村が言った。
「迷路から抜けて森に入ったのはこうなる事の必然、試金石だったのか?」
動きが取れなくなったビー玉としての僕は答える。
「この灯台は俺達に取ってのアガティスの葉の予言である死刑執行室なのだろうか」
動きを取れずあがき苦しんでいる田村が言った。
「いや、何かしらの突破口は必ずある筈だ。諦めるのはまだ早いぞ」
ここで僕は微かな物音を聞き付け、それを田村に告げる。
「静かにしろ、何か物音が聞こえるぞ」
くすんだ色のビー玉としての田村が難色を示す。
「俺には何も聞こえないぞ、何の物音だ?」
しばし耳をそばだて僕は言った。
「足音だ。誰かがここに向かって歩いて来る足音が聞こえるぞ」
田村が反論する。
「足音、俺には何も聞こえないぞ」
僕は恐怖にかられ告げた。
「俺には確かに聞こえる。この足音は俺を蹴る為に誰かが近付いて来る足音だ。助けてくれ、田村!」




