望郷星42
「田村、俺はここでアガティスの葉の予言通り誰かに蹴られて死ぬのか?」と僕は年寄りのビー玉になった田村に向かって尋ねた。
水面に浮き上がった途端、僕等は己の体内を緑色のビー玉になって垂直落下するのと同時に、床から徐々に円形としての身体を上方に抜いて行く矛盾した感覚を覚え、そのまま灯台の中に二つのビー玉として閉じ込められた。
堅牢なコンクリート造りの牢獄としての薄暗い灯台の中、僕等は完全に閉じ込められ、ビー玉なのに不条理にも身体が人間として加速度的に衰弱して行く。
灯台の冷たい床が人間としてのビー玉の僕等の生気を容赦なく奪い去って行く。
僕はビー玉として転がると同時に人間として倒れ込み、弱々しく傍らに転がっているビー玉としての田村に話しかけた。
「田村、俺はここでアガティスの葉の予言通り誰かに蹴られて死ぬのか?」
老人そのものになったくすんだ色のビー玉の田村が答える。
「分からない。ただ希望は捨ててはならないと俺は思う」
僕は息苦しさを堪える為に腹で波打つように息をしてから少しだけ右方向に転がり答える。
「希望とは何だ?」
田村が力なく左右に転がりつつ微笑み答える。
「成美ちゃんと村瀬を救出し又皆で酒でも飲もうではないか」
僕は複雑な面持ちをしてから言った。
「酒か、酒飲みたいな。でもそんなのはまるで別世界の出来事みたいだな」
田村が僕を励ます。
「弱気になるな、頑張るんだ」




