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望郷星41
「戻るんだ田村、戻らないと鮫のワームホールに食われてしまうぞ!」と僕は喚いた。
入った途端真っ暗なトンネルの闇に僕等の身体はめくるめく浮いた。
無人島の海に潜水した時と同じ無重量状態だ。
眼は暗黒の闇に何も見えないが身体は重力の束縛から解き放たれ、上下左右の感覚が完全に失せてひたすら軽く、身体の不調も嘘のように消え失せている。
それはひたすら衰弱死から免れる心地好い感覚なのだが、それに相反して僕はワームホールの鮫の牙が漆黒の闇の中に潜み、今にも襲われるような恐怖感にわしづかみにされ、僕は傍らで漂っている田村に対して声を限りに喚いた。
「戻ろう、田村、戻らないと俺達の命は無いぞ!」
田村が漂う事に恍惚としながら答える。
「ちょっと待ってくれ。迷路に戻ったって俺達の命は遠からず無いぞ?」
僕は闇を漂いながら再度喚いた。
「戻るんだ、田村、戻らないと鮫のワームホールに食われてしまうぞ!」
心地好さに陶酔している田村が尋ねる。
「だから、どうやって戻るんだ?」
僕は再度喚いた。
「がむしゃらに泳げ、泳ぐしかない!」




