望郷星40
「しかし迷路に初めての変化らしきものとして現れたトンネルだし、中にパラソルがある可能性に賭けて行くしかあるまい」と僕は言った。
唐突にそこにある筈の無いトンネルが現れた。
そのトンネルははっきりと見える山肌を穿たれて出来ているわけではなく、左右を林道に挟まれ、上方のどんよりとした空を二重写しのようにもどかしく見える山肌となし、そこに黒い穴をぽっかりと開けている形をとったトンネルだ。
老人さながらにびっこを引き始めた田村が僕に辛そうな声で尋ねる。
「どうする、真っ暗だが入るか?」
僕はゆっくりと振り返り、来た上り坂とは違い下り坂に変化している林道にパラソルやビー玉が無いのを確かめてから、やはりしゃがれた老人のような声で弱々しく答えた。
「前方に行くにはそのお化けトンネルしかないのだから入るしかあるまい…」
田村が怖じけづき尻込みするように言った。
「しかし恐ろしく真っ暗で奥には出口など何も見えないぞ」
僕は唇を震わし答える。
「しかし迷路に初めての変化らしきものとして現れたトンネルだし、中にパラソルがある可能性に賭けて行くしかあるまい」
田村が答える。
「分かった。しかし俺はまともに歩けない。お前悪いが肩を貸してくれないか」
僕はしゃがれた声で答える。
「分かった」
僕は田村ににじり寄り、肩を貸して、まるで二人三脚するように慎重な足取りで、不気味で不条理過ぎるトンネルへと歩を進めて行った。




