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望郷星306

そう言って僕は母さんや妻のいる故郷に戻りたいと心の底から願い、田村の手を握ったまま眠りに就くように遡航して行った。

僕の心眼は田村と手を繋ぎ半睡状態のまま漂い、姿が見えない成美ちゃんに向かって尋ねた。





「成美ちゃん、妻と母さんは無事なのだろうか?」





成美ちゃんが答えた。





「無事です。半睡状態の望郷遡航を繰り返している貴方に自覚は無いかもしれませんが、もうとっくに村瀬さんの悪夢を退け塗り替えました」




僕は言った。





「ならば成美ちゃん、妻や母さんの所に戻してくれないか?」




成美ちゃんが答える。





「それは私には出来ません。貴方が郷愁感を以ってそれを望めば戻れるでしょう。但し…」





「但し?」




成美ちゃんが毅然とした口調で答えた。





「但し、前とは違い、貴方の主観は己との戦いに打ち勝ち、既に完成された瞑想装置、複数としての単数存在ですから、畢竟一箇所に留まる事は為されず、家族の安否を確認した後又夢の遡航を同時多発的に繰り返すのです。だから出会いは常に別れを孕んでいる刹那のものである事を肝に銘じて下さい」




僕は悲しみを堪えたまま言った。





「もう妻や母さんの所に留まる事は出来ないのだね、成美ちゃん?」





成美ちゃんが答える。





「いえ、同時多発的に常に一緒にいるのですが、裏返って、無数の分身や家族から貴方の姿は一切見えませんから、すなわち常に離別している状態なのです。それが貴方の今在るがままの真実なのです」





僕は涙ぐみつつ頷き言った。





「分かった。成美ちゃん。それじゃ俺はこれから家族に会いに行ってみるよ」




そう言って僕は母さんや妻のいる故郷に戻りたいと心の底から願い、田村の手を握ったまま眠りに就くように遡航して行った。

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