望郷星303
それを目の当たりにしている僕の中空に浮かぶ心眼が恐怖にかられ震え出した瞬間、僕は松ノ木の下でベー独楽をやり、その回るベー独楽の回転の中に乱闘を封じ込めるべくひとしきり念じると、僕の体は浮き上がり回転するベー独楽となり、乱闘をその素早い回転で消し去り塗り替え、僕はベー独楽となって、のとがな浜辺をゆっくりと滑空していく内に又眠くなり、そのままめくるめく夢の遡航を続けるべく眠りに就いた。
僕は又しても眠くなり、まどろむように眠りにつき夢の遡航を繰り返す。
紺碧の空の下、浜辺に立っている松ノ木が一本見える。
その光景を愛でるように成美ちゃんが言った。
「ここは貴方の忘却していた故郷なのです」
松ノ木の回りでベー独楽をやり、砂浜で凧揚げをしている子供達。
それは妙に懐かしい郷愁をそそる光景なのだが、僕はこの土地に来た覚えはなく、これは自分の分身の欠如分たる忘れていた故郷の光景であり、僕の欠如分が鋭意補完されている証明だと思った刹那、その光景が暗転一変して浜辺での凄惨なる乱闘に突然変異した。
銘々ナイフを持ち血で血を洗う乱闘は凄惨を極め、断末魔の絶叫が随所で上がり、次々といかつい男達が砂浜の上に血みどろになって倒れ、動かなくなって行く。
それを目の当たりにしている僕の中空に浮かぶ心眼が恐怖にかられ震え出した瞬間、僕は松ノ木の下でベー独楽をやり、その回るベー独楽の回転の中に乱闘を封じ込めるべくひとしきり念じると、僕の体は浮き上がり回転するベー独楽となり、乱闘をその素早い回転で消し去り塗り替え、僕はベー独楽となって、のとがな浜辺をゆっくりと滑空していく内に又眠くなり、そのままめくるめく夢の遡航を続けるべく眠りに就いた。




