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望郷星302

遠くで遊ぶ子供達の歓声が耳をくすぐるように聞こえ、母さんの作る夕餉の匂いに誘われて、僕は真っ赤な夕日と砂時計に背を向けて丘を下り、走り出した。

プールで溺れている恐怖の夢の中。




子供の僕は底に足が届かず、じたばたと足掻きもがくのだが、誰も助けてはくれない。




そして僕が溺れている水自体がやがて巨大な黒い鮫となり、僕は溺れながら残忍に食い殺されるのだろうと観念した瞬間成美ちゃんが優しく呼びかけて来た。





「故郷を思いだして」





溺れている僕はそのまま足を丘の上にふわりと着き、息を調え目の前に沈み行く真っ赤な夕日を見詰めている。





そして真っ赤な夕日の中にある砂時計が、砂をさらさらと落としながら「もうご飯だから帰って来なさい」と母さんになって微笑んでいるのを見付けた。





遠くで遊ぶ子供達の歓声が耳をくすぐるように聞こえ、母さんの作る夕餉の匂いに誘われて、僕は真っ赤な夕日と砂時計に背を向けて丘を下り、走り出した。





家に着くと母さんが台所に通じる通用口の前で手を振り、僕に手招きをして言った。




「ご飯出来たから、早くおいで」





僕はそれを見て腹が鳴り、母さんの本に走って行き言った。





「母さん、今日のおかずは何?」





「あんたの好きな肉じゃがだよ」





僕は母さんと手を繋ぎ歓声を上げた。





「わーい、僕の好きな肉じゃがだ」




そして僕は肉じゃがを食べつつ、好物の肉じゃがから上がる湯気を見詰めながら、溺れて鮫に食われる恐怖を忘却し、そのまま故郷の温もりへと塗り替えて行った。

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