望郷星300
「私と田村さんは貴方の夢にそっと語りかけているのです」と成美ちゃんは優しく言った。
成美ちゃんがひたすら優しく続ける。
「村瀬さんの悪夢が襲って来たら、貴方は幼い頃の故郷を思う郷愁の念でそれを塗り替えて下さい」
僕は恐れわななくように尋ねた。
「村瀬の、あ、悪夢の恐ろしい牙をどうやって退け、塗り替えるのだ、成美ちゃん?」
成美ちゃんが答える。
「その故郷を回想する美しいノスタルジックな思い出の温もりが村瀬さんの悪夢を消し去り、塗り替えるのです」
僕は焦れつつ尋ねた。
「思い出すだけでいいのか、他に何かしなくともいいのか、成美ちゃん?」
成美ちゃんが答えた。
「思い出すだけでいいです。他に何かをすれば効果はありません」
僕は不安にかられ再度尋ねた。
「成美ちゃん、ここは何処なのだ?」
成美ちゃんが答える。
「貴方自身の虚空の懐としてのポケットです」
「虚空のポケットがこんなに無限大とも言える程広いのか?」
成美ちゃんが優しく言った。
「ここには広さや狭さの概念は一切ありません。表も裏もなく表裏一体であり、上下左右の概念もありません。在るのは貴方の主観だけです」
僕は尋ねた。
「それじゃ俺は一体何処にいるのだ?」
成美ちゃんが答える。
「貴方の夢の中です」
僕は尋ねた。
「でも夢ならば、田村も成美ちゃんも単なる俺の幻想、夢なのか?」
成美ちゃんが物静かな口調で答えた。
「私と田村さんは貴方の夢にそっと語りかけているのです」




