望郷星30
「そうだ。この世界ではどうやら時間軸がバラバラになり同一、あるいは離反を繰り返し、同時多発的に機能しているらしい」と正気の田村が僕を介抱しながら言った。
田村が成美ちゃんに食ってかかる。
「おい、お前は村瀬の命令に従い、俺達を仲たがいさせて、二人共に絶対死させるつもりなのだろう、阿婆擦れめ!」
成美ちゃんが反論する。
「そんな事は断じて有り得ないわ。貴方こそ私に濡れ衣を着せて、私を殺し瞑想装置になるつもりなのでしょう、違うかしら?」
「この阿婆擦れめ、ぶっ殺してやる!」
成美ちゃんが甲高い声で悲鳴を上げた。
その悲鳴が重い重低音となり僕の鼓膜を撹拌し、僕の耳に突き刺さり、そのまま全身の血液を物理法則を無視してわしづかみにして、うっちゃるように投げ去り、僕は螺旋状の真っ白な時間軸の中を錐揉みするように吹き飛び砂浜に投げ出された。
悶絶して倒れた僕を正気に戻った田村が手を差し延べ手厚く介抱しながら言った。
「大丈夫か、おい、しっかりとしろ」
僕は瞼を開き、言った。
「俺は成美ちゃんとお前を追い掛け、瞑想装置もどきになって森の狂った時間迷路をひた走っていたのに、何故ここにいるのだ?」
田村が僕をじっと見詰め冷静な口調で答える。
「お前の体内の時間軸を成美ちゃんの金属音としての次元を超越した悲鳴音波が投げ飛ばし、お前は未来から過去へと吹き飛ばされたのだ」
僕は深呼吸してから尋ねた。
「俺は細胞が劣化して意識を失って倒れたのか?」
田村が恭しく相槌を打ち答えた。
「そうだ。この世界ではどうやら時間軸がバラバラになり同一、あるいは離反を繰り返し、同時多発的に機能しているらしい」




