望郷星3
「ならば俺のアガティスの葉の予言はまだ生きているとお前は言いたいのか、田村?」と僕は田村に尋ねた。
不気味な程の静けさの中、海はひたすらどす黒く、空はどんよりと曇っている。
田村が言った。
「ここは吊橋がある海浜公園からさほど遠くない所にある無人島だろうな…」
その言葉で僕は合点が行き答えた。
「あの海浜公園の近くだから、人が誰もいないのか?」
田村が頷き答える。
「そう思う。しかしこの海に母なる海の代弁者たる鮫など本当にいるのかな。あの海浜公園は無生物のカオスの坩堝だったし、もしかすると俺達は暗黒の宇宙空間に在って、それを無人島だと錯覚しているのかもしれないな。華氏三度に統一されている真空の宇宙空間こそが、正に人食い鮫の恐怖の対象だしな…」
僕は小刻みに震えつつ尋ね返した。
「ならば俺のアガティスの葉の予言はまだ生きているとお前は言いたいのか、田村?」
田村が答える。
「何だってありの世界ならば、それも有りの話しだろう。お前が完全なる瞑想装置になる前に人食い鮫たる宇宙空間のワームホールに食わしてジ、エンドとなれば村瀬の思う壷だからな」
僕は反論した。
「しかしさっきの話しを蒸し返すわけではないが、ここに鮫がいて、その海の代弁者たる鮫に食われまくれば、俺は母さんに会えるかもしれないではないか?」
田村が相槌を打ち答える。
「当然その可能性も謹誦だがあるわけだ。しかし身体が重くなって来たな。この事情も海浜公園と同じだな」
僕は田村に向かって恭しく頷き返し答える。
「そうだな。宇宙空間に巣くうワームホールに食われて耐えられない程に俺達はまだ完全なる瞑想装置では無い証左か?」
田村が自嘲ぎみに冷笑し答える。
「その通りだと思う。ワームホールの鮫の牙にかかって絶対死するのが、俺達のアガティスの葉の予言成就ならば、村瀬の罠は正に完璧、的を射た罠と言う事だろうな」
僕は独りごちるように言った。
「しかし母なる海の牙にかかって死ぬのが俺の宿命ならば、それも母さんに会うという目的達成に合致しているならば、もしかすると慶びの範疇なのかもしれないな?」
田村がせせら笑い言った。
「お前はそれを望んでいるのか?」
震えを堪え僕ははにかむように答える。
「いや、そんなのは断じて望んじゃいないさ」
田村がどす黒い海を指差し言った。
「ならば早く鮫に食われてみようではないか。と言うか鮫が本当にいるかどうか、こんなだるい身体で海に潜れるのかどうか早急に試してみるべきだろう?」
僕は隠せない程に身震いしつつ言った。
「しかしこのどす黒い海の恐ろしさは吊橋以上だな。正にワームホール級だ。足がすくんで一歩も動けないぞ」
僕がその言葉を言った直後、鬱蒼と茂る雑木林の方から甲高い少女の悲鳴が上がった。