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望郷星290
「実家に帰っても一人ぼっちになるわけではないし、何とかなるわ。それよりも今はお母さんの事を気遣かって上げるのが先決でしょう」と妻が僕を気遣い言った。
母さんの病状が悪化し入院する運びとなった。
その事が僕を精神的にすこぶる追い詰める。
僕は母さんに付き添っていたいのだが、身重の妻を一人にするわけにもいかず、それが出来ない。
妻がそれを気遣い言った。
「私はとりあえず実家に帰るから、貴方はお母さんに付き添っていて上げて頂戴」
僕は渋面を作りつつ腕を組み答えた。
「実家に帰って大丈夫なのか?」
妻が答える。
「実家に帰っても一人ぼっちになるわけではないし、何とかなるわ。それよりも今はお母さんの事を気遣かって上げるのが先決でしょう」
僕は息をつき答える。
「分かった。ここはお前の好意に甘えて俺は母さんに付き添うわ」
妻が僕を見詰め念を押すように言った。
「お母さんの事もそうだけれども、ここは貴方自身が自暴自棄になったら一巻の終わりだから、しっかりとしてね?」
僕は涙ぐみながら恭しく頷き言った。
「分かった」




