望郷星29
「騙されないで、貴方が歩いている先に青いビー玉があるわ。それが貴方のお母さんのパラソルの鈴の音に辿り着く目印になるの」と成美ちゃんは言った。
暗黒の海の中、高いクレーン車の透明ダイヤモンドの最先端の映像が不条理にも二次元転位して吊橋の様相を呈し、僕はその吊橋から縮こむように真っ逆さまに落下した。
恐怖感に総毛立ち、全身わななくままに僕は落下する先の黒いワームホールたる海に落ちて死ぬのを覚悟した直後、すかさず成美ちゃんが話しかけてきた。
「大丈夫よ、貴方は手鞠のように跳ねて私の方に明滅しながら向かっているわ。だから安心して突き進んで来て頂戴」
田村がそれを遮るように喚いた。
「信じるな。その声は成美ちゃんなんかじゃない。その声は村瀬の傀儡罠たる成美ちゃん騙し絵としての声だぞ、騙されるな!」
僕はその田村の声に向かってせせら笑い言い放った。
「貴様が村瀬で俺を騙している張本人なのではないか、田村!」
田村が大上段に叫ぶ。
「俺を信じられないのか?!」
僕はうそぶくように言った。
「信じられるものか!」
その話しに割り込むように成美ちゃんが再度言った。
「騙されないで、貴方が歩いている先に青いビー玉があるわ。それが貴方のお母さんのパラソルの鈴の音に辿り着く目印になるの」
僕は成美ちゃんの言葉を信じ答える。
「分かった。でも成美ちゃん、俺は一刻たりとも同じ道程を歩いていないぞ、それでも大丈夫なのか?」
成美ちゃんが答える。
「大丈夫よ。そのまま歩いて来て頂戴、必ず私の本に辿りつくから」
僕は懐疑心を以って訝るように答える。
「分かった、成美ちゃん…」




