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望郷星286
「母さん、本当にごめんなさい」と僕は熱い涙を流しながら言った。
尽きる事の無い憎悪と殺意に狂い村瀬は大量殺戮に酔っている
だが油断は禁物だ。
止まる事の無い狂気故にいつ母さんや妻に襲い掛かるか予測が付かない。
そして僕の隠密行動も極めて危ういものであり、まるで薄氷の上を歩くが如し様相を呈している。
気取られてしまえば全てが水泡に帰し、僕は家族もろとも破滅してしまう。
家族の命運は正に僕の動向に掛かっているのだ。
度重なる緊張感の連続で母さんは疲労困憊状態であり、床に臥してばかりいる。
僕はそんな母さんを労いつつ言った。
「御免、母さん。俺がこんな失態演じなければ、母さんもこんなに苦労しなかったろうに。本当にごめんなさい、母さん」
母さんが気丈に言って退ける。
「まあこれも私の宿命ならば、あんたのせいじゃないだろうが馬鹿息子」
僕が途方に暮れ涙ぐむのを逆に母さんが慰めて来た。
「泣いたって仕方ないじゃないか、馬鹿息子」
僕はこの慰めを聞き熱い涙を流しながら言った。
「母さん、本当にごめんなさい」




