望郷星25
そう思った瞬間、森全体が激しい地震で揺れ、林道に音もなく亀裂が走り地割れが出来て、多数の巨木がその地割れに飲み込まれたのと同時に、その地割れは元通りに修復され巨木も整然と立ち並ぶ光景が同時多発的複合型騙し絵として広がっていた。
来た道を踵を返して唐突に振り返ると違う道になっている。
ここで僕は考えた。
透明なるワームホールの化け物が時間を飲み込んで、それをアトランダムに吐き出しているのがこの迷路であり、然るに透明なるワームホールとしての透明体化け物はこの世界全体であり、それは取りも直さず瞑想装置そのものの田村の本体であるという事を。
だがと僕は考え直す。
田村の言葉を顧みるまでもなく全ての推測が可能性論の域を出ていない。
今眼前に広がり、僕を迷子にさせているのは狂った時間が作り出した迷路であり、当面僕に出来る事柄はこの迷路を突破して成美ちゃんを救出する事しかないと。
そう思った瞬間、森全体が激しい地震で揺れ、林道に音もなく亀裂が走り地割れが出来て、多数の巨木がその地割れに飲み込まれたのと同時に、その地割れは元通りに修復され巨木も整然と立ち並ぶ光景が同時多発的複合型騙し絵として広がっていた。
僕は動揺ししばし固唾を飲んでから成美ちゃんに話しかけた。
「成美ちゃん迷路にはまった。どうすればいい?」
成美ちゃんが答える。
「貴方のお母さんが醸し出すパラソルの鈴の音に耳を傾けて、迷路を突破すれば良いのよ」
僕は額の脂汗を手で拭い身震いしてから答えた。
「分かった。パラソルが目印で、そのパラソルが母さんのような鈴の音を出す事に耳を傾ければいいのだな、成美ちゃん?」
成美ちゃんが答える。
「そう、その通りよ」




