望郷星231
「だから足し算よ。成美ちゃんの代用品+成美ちゃんの名前代用品=成美ちゃんという」と妻は言った。
プールから上がり、喫茶店で軽食を摂っている時妻が言った。
「もしこの子が女の子ならば、成美という名前をつけてもいい?」
僕は内心動揺しうろたえるのを堪えてから答えた。
「それは構わないけれども、生まれて来るのが女の子だとは限らないじゃないか?」
妻が言った。
「あくまでも女の子だった場合よ」
僕は少しけだるそうな憂い顔を作りながら答えた。
「ああ、それは構わないけれども…」
妻が嬉しそうに言った。
「もし成美ちゃんが生まれたら、私は名実共に成美ちゃんに昇格出来るものね」
僕は訝り尋ねた。
「それはどんな意味だい?」
妻が答えた。
「だから足し算よ。成美ちゃんの代用品+成美ちゃんの名前代用品=成美ちゃんという」
僕は苦笑いしてから言った。
「何だその足し算は…」
妻が皮肉る感じで答えた。
「足し算には変わりは無いじゃない」
ここで僕のモノローグたる自問自答が不意に始まった。
「略奪し、不倫に走ろうとするお前を妻は牽制してこんな事を言っているのだ。お前が偽善を為してどんなに本心を隠そうが、妻はお見通しなのさ」
「俺は略奪愛も不倫も標榜してはいない。俺は今現在在るがままの愛を貫き成就しているに過ぎないのだ」
「その愛は偽善の賜物ではないか。お前の心は欺瞞に満ち溢れているではないか」
「俺に欺瞞などは無い。俺は自分の心に正直に従い妻を愛し、母さんを愛し、生まれて来る子供を慈しみを以って育んでいるだけだ」




