望郷星229
「再度言う。お前は成美ちゃんが好きだ。だから略奪し、名実共に自分の女にしたいのだろう。違うのか?」と僕は自問自答を為して行く。
「お前は自分の心に嘘をついているのだ。お前は村瀬から成美ちゃんを略奪したいから、成美ちゃんの傍に行きたいのだろう。違うのか?」
「いや違う。成美ちゃんはあくまでも村瀬の事が好きなのだ。俺がどんなに言い寄ったとしても、成美ちゃんの気持ちは動きやしないだろう。それは間違いない事実だと思う」
「お前は自分にそう言い聞かせながらも、その実誠意と正義は自分にあると村瀬をおとしめて、成美ちゃんに訴え、成美ちゃんの気を引きたいのは眼に見えているではないか。違うのか?」
「いや、そんな事をしたって成美ちゃんの気持ちは変わりはしない。成美ちゃんの村瀬に対する愛は正に盤石至上の愛だからな」
「そうやって諦めた振りをして、お前は内実成美ちゃんの分身では飽き足らず、成美ちゃんにちょっかいを出したくてうずうずとしているのだ。だったら子供や妻など棄てて、はっきりと不倫宣言すればいいではないか。綺麗事ばかり並べるのは偽善者のする事ではないのか?」
「俺は偽善者でもなければ、綺麗事も並べてはいない。確かに俺は成美ちゃんの事が好きだが、そんなのは叶わぬ恋ではないか。現実に見れば、俺は新婚の妻を無事出産させ、母さんを含めて幸せにするのが俺の責務なのだが、俺がそんな雑事にうつつを抜かしていれば、俺自身破滅してしまうからな」
「破滅覚悟なのが、不倫ではないのか?」
「俺には略奪愛や不倫願望など一切無い。それは成美ちゃんに対する冒涜だろう」
「再度言う。お前は成美ちゃんが好きだ。だから略奪し、名実共に自分の女にしたいのだろう。違うのか?」




