望郷星22
そして僕はそれを阻むであろう田村に激しい憎悪を抱いた。
倒れた筈の巨木が元通りになっている。
そして目眩がして眼を離したその直後巨木は元通り倒れていた。
その光景を目の当たりにして、僕は時間が粉々になる迷路だと直感し、そのまま佇み動けなくなった。
巨木が二度に渡って修復された理由としては、カオスの坩堝に冒された時間としての、過去、現在、未来がバラバラに撹拌されている現実が目の前に展開しているからだろうと僕は理屈抜きに考える。
鮫の牙としてのワームホールはその牙で時を食いちぎり飲み込んだからこそ、その過去をバラバラにして現在として吐き出し、その現在が過去としての未来となって同一、同時多発的に固まって複合的に現象化する不条理な現実。
だから今僕が見詰めているのは現在としての過去と未来であり、そこに連続性が無い分、在るのは堪らない程の分裂感、寂寥感と孤独感だけとなる現実。
そして、そのバラバラになった時間の混乱空間を、成美ちゃんの悲痛なる悲鳴と田村の雄叫びと、母さんの白い脆弱な鈴の音が交錯し聞こえて来る現実。
僕は割れるように痛む頭を再度抱え込み考える。
己が非情な瞑想装置になる前に、成美ちゃんを救出して、母さんの鈴の呼び声と一体化しようと。
そして僕はそれを阻むであろう田村に激しい憎悪を抱いた。




