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望郷星214
「お前のその手の優しい温もりが、お前の母さんの心臓を握り潰しているのが分からないのか、悪魔め」と村瀬の野太い声が言った。
悲しい鯉のぼりになって僕は真っ白な涙だけの空間を漂っている。
無性に寂しい。
心細くて気が狂いそうなのを感じた刹那、成美ちゃんの鯉のぼりが僕に寄り添い優しく言った。
「鯉のぼりの心臓は、あなたの母さんの心なのよ。それを握ってあなたは何がしたいの?」
僕は泣き笑いの表情をして答えた。
「この心臓が母さんの心ならば、僕の手は母さんの温かい手を握っているだけなのだよ、成美ちゃん」
成美ちゃんが首を振り答えた。
「私にはそう見えないわ。あなたは母さんの手の温もりを求めて、母さんの心を握り潰しているようにしか見えないわ」
僕は首を振り否定した。
「でも成美ちゃん、僕の手は母さんの手の温もりで一杯だよ」
成美ちゃんの声が急変して男の声となり、野太く言い放った。
「お前のその手の優しい温もりが、お前の母さんの心臓を握り潰しているのが分からないのか、悪魔め」




