望郷星213
だが痛みはなく、僕は何処までも蒼い空を漂う鯉のぼりになって母さんに手を引かれ街角を歩いている。
村瀬の言葉に触発され僕は自分の心臓を己で握り潰せば、母さんが助かるのではないかと感じ、それを実行した。
母さんの心臓を握り潰している己の手の平の中に、僕は瞬きをして、自分の心臓をすり替えた。
そして力の限り握り潰しにかかる。
だが痛みはなく、僕は何処までも蒼い空を漂う鯉のぼりになって母さんに手を引かれ街角を歩いている。
手の温もりが温かい母さんが言った。
「坊や、玩具は何が欲しいの?」
僕は母さんに向かって微笑み答えた。
「僕、あれが欲しい」
僕が指差した先にショーウインドーの中に飾られた飛行機のプラモデルが陳列されている。
それを一瞥して母さんが言った。
「坊や、離して、痛い」
母さんが再度言った。
「母さん、痛い」
「痛い」
「痛いわ。母さん」
僕は鯉のぼりになった母さんを見上げ、僕の母さんの手を握っている筈の手が、母さんの心臓をわしづかみにするのと同時に僕は自分の心臓を握り潰しにかかっているのを見た。
同時に母さんと自分の心臓を握り潰せば、母さんは助からないと思い、僕は心臓から手を離そうとするのだが出来ない。
母さんが再度言った。
「坊や、手を離して、母さん痛いから」
僕は泣きじゃくりながら答えた。
「か、母さん、手を離そうとしても手が離れないのだよ、か、母さん」
「坊や、手を離して、お願い」
僕が何とか手を離した瞬間、飛行機のプラモデルとしての母さんの心臓が潰れ、ショーウインドー共々粉々になって、ガラスのように四散飛び散った。




