望郷星2
「それはとにかく鮫に食われてみないと、罠かどうかは分からないと言う事だろう…」と田村は言った。
瞬時頭から落下したのと同時に七色に色付く周囲の世界がグルリと逆回転して、衝撃を感じない不条理な感覚の本に僕は色を少しづつ抜くように足から着地した。
続いて田村の姿が徐々に逆巻くように色付いて行き、その全容を現し、言った。
「どうやら、ここは無人島のようだな」
僕は頓狂な声を上げてから尋ねた。
「何故そんな事が分かるのだ、田村。お前は今ここに着いたばかりではないか?」
田村が色を落とすように前髪をたくし上げてから答える。
「今あるは過去の全ての総和ならば、未来はそこからの延長線上にあるからな。後は瞑想でその点を逐一読めば、大体の予測はついていたわけだ。そんな事よりもお前に話しかけた少女は成美ちゃんの分身かもしれないな。だとしたら厄介な事になるのではないか…」
僕は訝る。
「ちょっと待て、田村。お前は未来を点で見て、ここが無人島だと言ったではないか。それなのに何故これから俺達に起きる事柄の全体像が分からないのだ?」
田村が答える。
「だからお前が出会った少女が成美ちゃんの場合、そこには村瀬の罠が待ち受けている可能性があり、だからこそ俺の未来予測も妨害されているからこそ、厄介な問題だと俺は言っているのだ」
僕は首を傾げ尋ねた。
「成美ちゃんが村瀬と結託して俺達を妨害するのは何故なのだ?」
田村が事もなげに答える。
「成美ちゃんは村瀬を愛しているからな。そして村瀬は俺達に大いなる憎悪を向けているからこその妨害工作だろうな」
僕は田村をしげしげと見詰めながら尋ねる。
「村瀬は俺達を何の為に妨害するのだ?」
田村が苦笑いしてから冷静な口調で答える。
「唯我独尊たる瞑想装置は一人いれば良く、二人はいらないのだろう、きっと…」
僕は再度怪訝な顔付きをしてから尋ねた。
「しかしそれはあくまでも可能性論の範疇であり、鮫に食われて俺が母さんに会える可能性も残されているわけだよな?」
田村が緊張感を抜く為に息を吐き出してから答える。
「それはとにかく鮫に食われてみないと、罠かどうかは分からないと言う事だろう…」