望郷星192
「だから私は確かにガンを患っているけれども、寝たきりでは無いじゃないか。あんたが私の身の回りの事全部やっちゃったら、私は逆に衰弱して歩けなくなって本当に寝たきりになり、おだぶつじゃないか。違うのか?」と母さんが目くじらを立てて主張した。
母さんが言った。
「明日の病院は私一人で行くからさ。あんたは許婚さんとデートでもしなさいよ」
村瀬の妨害もあり不安にかられ、ほぼ付きっ切りでいる僕への母さんの気遣いなのだが、僕は微笑み断った。
「いや、俺もついて行くよ。母さんは今が一番大事な時なのだから」
母さんが自分の意見を押し通す。
「私は寝たきりの老婆ではないのだからね。自分の足で歩けるし、自分の事は自分で出来るじゃないか。あんたが何でも身の回りの事やってくれたら、私逆に衰弱して死んじまうよ。そうでしょうが?」
この言葉を聞いて、僕は母さんを心配する余り、家事を殆ど自分でやってしまっている事に改めて気が付き、慌てて弁解した。
「でも母さんは病人だから仕方ないじゃないか?」
母さんが目くじらを立てて自分の言い分を主張した。
「だから私は確かにガンを患っているけれども、寝たきりでは無いじゃないか。あんたが私の身の回りの事全部やっちゃったら、私は逆に衰弱して歩けなくなって本当に寝たきりになり、おだぶつじゃないか。違うのか?」
僕は苦笑いし、母さんの言い分を認めて頭を下げ謝った。
「御免、母さん、そうだよな、母さんは寝たきりの老婆じゃないしな。自分の事は自分で出来るのだから、それをしなかったら本当に寝たきりになってしまうものな。御免母さん」
ソファーに腰掛けている母さんが我が意を得たりと微笑み畳み掛けるように言った。
「だから明日の病院は私一人で行くからね。あんたは許婚さんと小作りでもしなさいよ。分かった?」
僕は気圧されるように再度苦笑いしてから頷き答えた。
「分かったよ母さん。まだ正式に結婚しているわけじゃないから、小作りは出来ないけれども、デートして結婚を決めて見せるわ」




