望郷星191
「掌握が不完全ならば、まだ俺達に目はあると言う事か?」と僕は田村に尋ねた。
母さんに対する施術は良好なまま推移し、とりあえず終了してから、僕は田村と二人っきりになりおもむろに言った。
「村瀬はやはり俺達を弄び、愉しんでいる事は間違いないな。あいつがどこにいるのか特定さえも出来ないならば、もう俺達はお手上げ状態だな」
田村が眉をひそめ答える。
「あいつはカオスの坩堝の申し子のような存在であり、存在自体が思弁的な複数としての単数概念そのものであり、在るが無いという掴み所の無い存在だから、まず瞑想装置もどきの俺達には特定するのは無理だろう。だから、ここまで来たら俺達は力の限り行くところまで行くしか無いと俺は思う」
僕は無念の表情を顕にしてから尋ねた。
「死中に活を見出だす手は何か無いのだろうか?」
田村が答える。
「前にも言ったが、奴がカオスの坩堝たるこの時空間を完全に掌握制御しているのかどうかだけが問題となると思う」
僕は渋面を作りつつも恭しく頷き再度尋ねた。
「掌握が不完全ならば、まだ俺達に目はあると言う事か?」
田村が答える。
「そうだ。完全掌握していなければ何処かに綻びは必ずある筈だからな」




