19/310
望郷星19
「ぶっ殺す」と狂った田村は雄叫びを上げた。
二人して森に引き返した直後、田村が白目を剥き唸り声を上げてのけ反るように倒れ、えびぞりになってから高鼾をかき始めた。
これは発狂する直前の合図なのを悟り、僕は少しずつ慎重に後ずさりしながら田村の様子を窺った。
発狂すれば不自由な人間存在ではなくなり、田村は瞑想装置に再度変貌する。
それは取りも直さず、僕と田村の身体能力が掛け離れる事を示唆しており、すわ戦闘態勢になれば、僕は一たまりもない。
その事情を鑑みて、僕はにじるようにじりじりと高鼾をかく田村との距離を鋭意置いて行った。
田村が再び目覚めた刹那、僕は木陰に隠れ身を潜めた。
その物音を聞き付けるように田村が大きく瞼を開き、立ち上がって言い放った。
「ぶっ殺す!」
その形相は巨大なる力を取り戻した瞑想装置のそれであり、僕はその恐怖に萎縮し思わず縮こまり身を屈めた。
幸いにも僕の存在に田村は気が付かず、そのままもう一度殺意丸出しの雄叫びを上げた。
「ぶっ殺す!」