望郷星189
彼女と田村が固唾を飲み見守る中、僕は母さんの所に戻れた喜びと、人間存在に立ち返れた喜びを噛み締めながら涙ぐみ言った。
僕としての田村を追い掛けながら狂喜しつつ、僕は己の母さんに対する思慕が薄れて行くのを感じている。
それは村瀬への同化であり、人間としての心を失い、完全なる瞑想装置への転換を至福となし悦ぶ衝動なのだ。
林道を力任せに走破あるいは跳躍しながら、衰えを知らない戦闘力で田村に挑みかかり、その熾烈な戦闘に僕は胸躍り酔いしれ狂喜している。
僕としての田村も瞑想装置への高揚を喜悦しながら闘う悦びに酔いしれ狂喜しているのが見て取れる。
田村に前蹴りを入れられ僕は吹き飛び倒れ込み、血へどを吐いて、そのまま反動をつけて地面を蹴るように田村にパンチを叩きつけた瞬間、その衝撃に頭が真っ白となり、僕はビー玉の右回転するのと同時に左回転する水滴の滴りとなり、めくるめく遠くに聞こえる成美ちゃんもどきの悲鳴に触発されて瞼を開いた。
その僕に母さんが言った。
「何か息苦しいよ。胸が重たくなって来た。あんた私に何を入れているのだ?」
彼女と田村が固唾を飲み見守る中、僕は母さんの所に戻れた喜びと、人間存在に立ち返れた喜びを噛み締めながら涙ぐみ言った。
「御免、母さん。ちょっと気が散っていたみたいだ。最初からやり直すわ」




