望郷星180
「しかしその隙に母さんが奴に殺されてしまったら、俺はどうしたらいいんだ!」と僕は忌ま忌ましげに喚いた。
僕は杖をつき歩いて、息を切らして立ち止まり田村に向かって尋ねた。
「しかし何故この世界ではこんなに早く老化と言うか細胞劣化が進むのだ?」
同じように杖をついて歩いている田村が立ち止まり、再度しゃがみ込み答える。
「ここは大気汚染や細菌ウイルス、天候の激変や寒暖の急激な落差、人間同士の競争、殺し合い騙し合い等に翻弄されそのストレスに病み、時間概念に消耗させられて老いさらばいて行く人間社会に酷似しているではないか。ただ違うところはそういった負の要素がまるで凝縮しているかのように、人が誰もいない孤独と不安、寒さ暑さも失せ生理現象が無く、時間は動いているのか止まっているのか分からない分、細胞劣化、及び老化の速度が一律に速まる異様な世界なのだろう」
僕は切れた息を調える為に深呼吸を繰り返してから言った。
「そして即席にに死んだ後狂いながら蘇生して同士討ちをする顛末を村瀬は高見の見物か?」
田村が辛そうに頷き言った。
「そうだ」
僕は涙ぐみ再度忌ま忌ましげに喚いた。
「しかしその隙に母さんが奴に殺されてしまったら、俺はどうしたらいいんだ!」
田村が何も答えずに杖を頼りに立ち上がり歩き出すのを見遣り、僕はやはり杖を頼りにして歩き出し、衰弱して行く老人の如く追いかけた。




