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望郷星18
「俺には人の心を変える慈しみの力は無いが、人を思いやり、微力ながらも何とかしてやりたいという願望意志の力はあると思うのだ」と僕は言った。
田村が言った。
「俺がこんな事を言うのはお門違いだと思うのだが、あの悲鳴の主が成美ちゃんだと何故思うのだ?」
どす黒い海を見詰めたまま僕は答える。
「海浜公園の時もそうだったではないか。成美ちゃんは狂って迷路をさ迷っていたからな」
息を調え田村が反論する。
「だが、あの時も俺達は村瀬を愛する成美ちゃんを救出する事は出来なかったではないか。違うのか?」
僕は首を振り否定した。
「いや、成美ちゃんは最終的に正気を取り戻し愛する村瀬を追跡して行ったのだから、救出は出来たと俺は思っている」
田村が僕を眩しいものを見るように見遣り尋ねる。
「今度もお前は狂った成美ちゃんを正気に戻す事が出来る自信があるのか?」
僕は深呼吸してから頷き答えた。
「俺には人の心を変える慈しみの力は無いが、人を思いやり、微力ながらも何とかしてやりたいという願望意志の力はあると思うのだ」




