望郷星172
その言葉を聞いて、僕は自分に突然変異した邪気を入れたのと同時多発的に、母さんにもその邪気を入れ、母さんに邪気を入れた世界から、自分が上げた叫び声か母さんが上げた叫び声か判別出来ない絶叫を分岐基点にして点を結ぶ移動をし、彼女に助けられた世界に己の陽神としての身体をもんどり打つように投げ込み移動し、助かった事を再認識した。
そんな僕の思惑を見透かすように母さんがおもむろに言った。
「私に気遣うのはいいから、ちゃちゃっと施術を再開してよ。もうとっくにはらは括っているのだし、能書きはいいからさ?」
僕は苦笑いして彼女に目配せをした後、良気が出ているかどうかを確認する為に手の平を自分の閉ざした右眼に当てて見た。
眼から包帯を巻くような感じで、まばゆく光る縦長の気をとぐろを巻くように下へと落として行きながら、胸の部位で一旦止め、右回転するチャクラを回してから、良気が回っている事を確認し、息を吐いて僕は瞼を開いた。
そして母さんの患部に再度手の平を当てた瞬間、僕の気が制御不能となり、瞬時に真っ黒な邪気に突然変異して、母さんの患部をえぐるように冒し始めた。
僕は震え動揺しうろたえる自分を何とか自制して制御不能になった気をコントロールしようとあがくのだが、声も出せず、身体が硬直してぴくりとも動かない。
そんな僕を嘲笑うように、僕の身体から出た真っ黒い邪気は母さんのガン細胞を踊るように次々と増殖させて行く。
そして母さんが激痛に上げた絶叫が、めくるめく邪気に変異して、僕がしたように僕の頭の周りを繭を紡ぐように移動してから手の平を通り、まるでスローモーション画像を見るように母さんの患部を鋭くえぐり攻撃して行く。
なす術もなく動けない僕の耳に再度母さんの絶叫が届いた瞬間、彼女が僕に体当たりして来て、僕は吹き飛び倒れ込んで、身体の自由を何とか取り戻した。
そこで異変が起きた。
絶叫を上げて苦しんでいた筈の母さんが涼しい顔をして横たわったまま僕に言い放った。
「あんた、何自分に気を注入して悶え苦しみ叫び声を上げているんだい。許婚さんが体当たりしなければ、あんた自分で自分に気をいれて死んでいたのじゃないのか、大丈夫かい?」
その言葉を聞いて僕は自分に突然変異した邪気を入れたのと同時多発的に、母さんにも邪気を入れ、母さんに邪気を入れた世界から、自分が上げた叫び声か母さんが上げた叫び声か分からない絶叫を分岐基点にして点を結ぶ移動をし、彼女に助けられた世界に己の陽神としての身体をもんどり打つように移動し、助かった事を再認識した。
彼女が心配そうに言った。
「大丈夫ですか?」
その言葉を聞いて僕は村瀬の妨害がここに来て始まっているのを確信し、母さんを殺さない世界に来れた事に固唾を飲み、再度戦意を奮い立たせた。




