望郷星17
「あの悲鳴の主が成美ちゃんならば、成美ちゃんを救出しよう。それがこの無間地獄から脱出出来る突破口だと俺は思う」と僕は言った。
砂浜に着いた途端息を切らした田村が寝転がり、どんよりと曇った空を眼を細めて見上げてから言った。
「海浜公園の時もそうだったが、有力な突破口としては俺達が狂い、仲間割れして殺し合えば、残った者が瞑想装置に戻れるという事か…」
僕は田村の言葉を真っ向否定した。
「それではお互いに孤立無援の状態となり、友情と言うかお互いの絆が損なわれるではないか。俺はそんなのは断じて嫌だ」
田村が胡座をかいて座り込んでいる僕を横目で見遣り、おもむろに言った。
「お前俺と離れ離れになって争うのが寂しいのか?」
僕は虚勢を張らず答える。
「それはそうだ。人間存在に退化した証拠かもしれないが、こんな無間地獄のような所で一人ぼっちになったら、それだけで不安と孤独感に孤独死してしまうわ」
田村が空に視線を戻しおもねるように言った。
「ならば友情を貫く為に二人してここから海に潜り心中するか?」
僕は即答した。
「いや、それも嫌だな、御免被りたい」
青ざめた顔付きをした田村が再度引き攣るように苦笑いしてから言った。
「だが心中しなければ、いずれにしろ四面楚歌の中、俺達は狂って離れ離れになり殺し合う定めではないか。後はどちらが先に狂うかの問題だけだろう、違うか」
僕は海を見詰め黙考してから提案した。
「あの悲鳴の主が成美ちゃんならば、成美ちゃんを救出しよう。それがこの無間地獄から脱出出来る突破口だと俺は思う」




