望郷星161
僕はひたすら苦悩する。
ガン細胞を導引して対外に放り出し、消滅させる自信などあろう筈が無いのだ。
それに加えて施術中に村瀬の妨害が加われば、僕はおろか母さんの命に関わる問題となってしまう。
一人になり、僕は自分の部屋に篭りベッドに疲れた体を投げ出すように横たわった。
母さんを失いたくない。
そぞろそんな思いが否応なしに頭にもたげて来る。
東洋医学及び中医ではガンの末期症状にも気功を施し、治癒させた実例があるのを僕はネットで調べた。
目の当たりにしているわけではないので、その真偽の程は分からないが、理論面ではそれが可能である事を僕は認知理解してはいる。
所謂量子論の解釈問題で波と言うのを気であると措定して、その複数在るが単数として捉らえられていて、片方は観測出来ないので無いとされる波としての気を、意識を集中駆使して制御導引するのが東洋医学の範疇である気功術となる。
科学的ではなくオカルトじみているから世間では容認されず、迷信扱いされがちだが、権威ある西洋医学の教授でさえ、その施術を目の当たりにして認めざるを得ないところまで来ているのも事実なのだ。
だが母さんにそれを施す自信は僕には無い。
ましてや相手はガン細胞だ。
それを導引して対外に放り出し、消滅させる自信などあろう筈が無いのだ。
それに加えて施術中に村瀬の妨害が加われば、僕はおろか母さんの命に関わる問題となってしまう。
逆に村瀬の有する力ならば、ガン細胞を逆手に取って僕と母さんを翻弄し死滅させる事も可能ならば、僕の迷いと苦悩は益々深まるばかりだ。
どうしてよいのか分からない。
その一語に尽きる。
僕はそんな切羽詰まった現実にてんてんとして血迷い、ひたすら悩み、眠れない夜を独り過ごした。




