望郷星16
「何だ、そのたった一つの真実と言うのは?」と僕は田村に焦れるように尋ねた。
重い身体を引きずるように砂浜に向かいながら、僕はまくし立てる。
「しかしあのワームホールはどうあってもおかしいではないか。物理的法則を無視したワームホールなんかワームホールではないぞ、どう思う、田村?」
だるそうに歩いている田村が眉をひそめ答える。
「だからここではその物理法則が一切通用しないのだ。第一あのワームホールは俺達を人間存在に堕落させ、威嚇し楽しんでいる、言わば意思を持ったワームホールなのだぞ。意思を持ったワームホールだって物理法則上では有り得ないではないか。違うか?」
動揺混乱するままに僕は反論する。
「しかしあのワームホールは村瀬の罠ならばワームホール自体が意思を持っていると言うのは詭弁ではないか?」
けだるそうに沈思する間を置いてから田村が答える。
「いや、こう言っては何だが、まだ何一つ判明していない言わば無の状態ではないか。あの透明体の化け物がワームホールの鮫である事も可能性論の範疇であり、俺の言う複合型空間も可能性論、そしてあの悲鳴が成美ちゃんのものであるという仮定も判明していない可能性論の範疇ならば、ここでの真実は一つしか無いという事になるではないか…」
僕は焦れるように尋ねた。
「何だ、そのたった一つの真実と言うのは?」
立ち止まり、田村が深呼吸を二度繰り返してから答える。
「ここは狂ったカオスの坩堝だという事さ」