望郷星152
「そうですね。ベー独楽の夕日が回る恋心の忘れ形見ですね」と彼女は言った。
痛ましくも村瀬に寄り添い、懸命に己の恋心を昇華させている成美ちゃんの偶像を僕は脳裡に喚起して、そぞろ涙ぐんだ。
彼女がそれを見逃さずそこはかとない哀愁を湛えて言った。
「その涙、ベー独楽の回る夕焼けみたいで恋心への郷愁をそそりますね」
この言葉を聞いた直後僕は路傍の石となり、蹴られて点となり、絶対死の狭間を点としての切断面を線にしながら突き進み、生が死を生む、死が生を生むベー独楽の夕焼け独楽となり、無色透明な波の涙となって漂い、白い心のままに絶対死に塗れ、その絶対死が対消滅して、僕は彼女の恋心の在りかの生へと目覚め、郷愁感にそぞろ目頭の涙を拭い言った。
「恋心の破片がベー独楽の夕日ならば寂しいですね?」
その言葉にも彼女は即答した。
「いえ、寂しくなんかありません。懐かしいだけですよ。だってそれは私の幼い頃のベー独楽の夕日の夕焼けだから」
僕はセンチメンタルな気持ちを拭うように涙を拭い言った。
「恋心の忘れ形見ですか?」
彼女が頷き答えた。
「そうですね。ベー独楽の夕日が回る恋心の忘れ形見ですね」




