望郷星149
「でも粒と波は表裏一体一つのものですよね」と彼女は言った。
だが彼女が成美ちゃんの化身だった場合は話しが少なからず異なって来る。
成美ちゃんも瞑想装置に匹敵する力を有しているならば、そう簡単には村瀬の支配下には入らないだろう。
しかし僕の知っている成美ちゃんは村瀬に対して献身を惜しまない女性だ。
だから村瀬の命令に隷属してけして逆らったりはしない事も容易に推察は出来るが、ここに来て、話しは少なからず複雑化していると言ってよいだろう。
彼女は成美ちゃんとは全く違う顔をしているし、育った環境も異なり、考え方も別人の如く違う。
この差異も複数としての単数感覚を当て嵌め鋭意考える事は出来る。
複数としての別人も、単数としては成美ちゃんそのものであり、そこに複数としての単数感覚を当て嵌める事は矛盾を溶解させれば容易に措定出来るわけだ。
1+1=0のその0の中に成美ちゃんと彼女は混在しており、複数部分で別人であるのと、単数部分0では複合的に同時に同一人物ならば、彼女は成美ちゃん以外の何者ではないが、それと同時に別人であると言う永遠遡航が何処までもなされて行く。
そんな思弁を続行しながら僕は尋ねた。
「量子論の解釈問題に於ける波が僕で粒が貴女という可能性を措定して、僕が波ならば人間の貴女には永遠に正体不明、謎のままですよね?」
彼女が事もなげに即答した。
「でも粒と波は表裏一体一つのものですよね」




