望郷星148
「だからお酒を飲んで様々な角度から貴方を観察させて貰っているのですよ。それで少しずつ私の気持ちが変わるかどうかを私は楽しんでいるのです」と彼女は言った。
彼女と話しながら僕は考える。
村瀬は今僕の目の前で起きている現象を自在にコントロールして、それを僕の意識野に焼き付け、誘導する力を持っている。
それは憎悪と怨嗟、悪意に満ちた攻撃と呼べる。
それに相対するように僕は母さんに対する孝行で、及ばずながらも対抗する図式が継続的に展開している事は間違いない事実と言えよう。
だからこそ例えば彼女が村瀬の制御するロボット然とした生き物に成り下がっても、僕は己の慈愛の力を信じ、母さんの慈しみに報いる為にも村瀬の悪意に屈する訳には行かないのだ。
この戦いは言わば暗黒の大宇宙を舞台にした、熾烈なる瞑想合戦と言えよう。
各々意思の力を試されている戦いと言いきれる。
村瀬の支配下に入れば僕の負けであり、村瀬の意識野を完全掌握支配下に治められれば僕の勝ちとなる。慈愛対憎悪の果てしない戦いなのだ。
だから彼女が何処まで村瀬の支配下にあるのかを見極めながら、慎重に或は大胆に話しを進めて行こうと僕は念じ、彼女に話しを振った。
「恋心と言うのは、いずれにしろ心の問題だし、強制して出来るものではありませんからね、少しずつでも僕を理解してくれれば幸いですよ。実際問題」
彼女が言った。
「だからお酒を飲んで様々な角度から貴方を観察させて貰っているのですよ。それで少しずつ私の気持ちが変わるかどうかを私は楽しんでいるのです」




