望郷星143
「だからこそ俺は今目の前にある単数としてしか見えないこの脆弱なる人間社会の現象を信じるのだ。そして俺の信じた愛を貫くのだ」と僕は言った。
村瀬が続ける。
「お前はお前自身たる複数としての単数ワームホールの実在を目の当たりにしたわけだ。脆弱なる人間存在にはその認識はおろか、同時多発的に恒星爆発を引き起こしているのが点としてのワームホールである事も見分けがつかないわけだ。それが取りも直さずお前が複数としての単数感覚を備えた証明になるではないか。違うのか?」
僕は混乱する頭を左右に振り言った。
「嘘だ。この映像はお前が俺に催眠術でもかけて見せているものであり、だからこそ俺は複数としての単数感覚を備えていると錯覚しているに過ぎないのだ。村瀬、俺を騙しても無駄だぞ。俺は絶対にお前の口車には乗らないからな」
村瀬がせせら笑い言った。
「強情っ張りな奴だな。相変わらずお前は?」
僕は言い切った。
「だからこそ俺は今目の前にある単数としてしか見えないこの脆弱なる人間社会の現象を信じるのだ。そして俺の信じた愛を貫くのだ」
村瀬が含むように冷笑を湛え言った。
「人間社会の脆弱なる愛など、もう既にこの多次元宇宙には存在すらしていないのだ。それをお前自身が消滅させた事をお前は自覚し認識するしか道は無い」




