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望郷星139
「私は私です」と彼女は言った。
村瀬がせせら笑い言った。
「しゃらくさいわ。実存とはお前の偽善だけに峻烈されているものならば、お前の見ている幻想としての傀儡慈しみや愛のみが実存なのではないのか?」
僕は力の限り反論した。
「今、目の前にある現実が例えば傀儡の幻想であろうともそれは確かに眼に見えている事実ならば信じるしかないではないか。この肉体には五感があり、殴られれば痛いと言うのを信じるしかあるまい。違うのか?!」
村瀬が否定を繰り返す。
「それこそ盲信、錯覚の極致ならば好きにすれば良いではないか。勝手に幻想錯覚の中で生きていればいい。それだけの話しさ」
「村瀬、堂々と姿を現し勝負しろ。卑劣な真似はするな!」
村瀬が返事しない代わりに彼女が言った。
「本当に大丈夫ですか?」
僕は彼女に尋ねた。
「君は本当に成美ちゃんなのか?」
彼女が答える。
「私は成美ちゃんではありません」
「それならば君は誰だ?」
「私は私です」




