望郷星135
やがて殴りつける波が大外刈りのように足元を掬い、僕は無色透明な波の繰り出す無数のパンチにもみくちゃにされ、激痛にもだえ苦しみ、宙に浮いたまま七転八倒した。
彼女と話しをしながら僕はカラオケのスクリーンを何気なく一瞥した。
するとそのスクリーンには粒と波が大写しに映っており、唐突に僕の視線は右側の波に張り付き吸い寄せられ、そのまま体ごと吸い込まれて行った。
前後左右をたゆたう波が揺れる無色透明な空間。
波は無色透明で見えないのだが、僕の体には明らかに波がぶつかって来ており、無色透明の波だと言うのは感じ取れる。
無色透明な波に体全体を揉まれる空間は広いと同時に狭く、波に揉まれている感覚が広さの感覚を浸食し麻痺させてしまっている。
僕は不安と孤独感に思わず叫び声を上げようとするが声が出ない。
やがて無色透明の波の体に当たる強度が徐々に増して来た。
そしてその強度が増大したところで、僕は無数の波のパンチに殴られ始めた。
激痛が走り、叫び声を出すのだが、その叫び声は全て縦横無尽に体を殴りつける無数透明の波のパンチに吸われて、僕の耳には届いて来ない。
やがて殴りつける波が大外刈りのように足元を掬い、僕は無色透明な波の繰り出す無数のパンチにもみくちゃにされ、もだえ苦しみ、宙に浮いたまま七転八倒する。
激烈なる痛みに意識が遠退いた瞬間、彼女が僕の肩を叩き、言った。
「大丈夫ですか?」
僕は白目を剥いたまま瞼を開き痛みに顔をしかめた後息を切らしながら言った。
「す、すいません、又しても酒に飲まれてしまいました」




