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望郷星13
「村瀬は俺達をいたぶるのを楽しんでいるのさ」と田村は言った。
逃げ腰のままに僕は尋ねる。
「しかしワームホールというのは膨大なる質量を持っていて、あらゆる物を吸い込み消し去るならば、鮫のようにピンポイントを食いちぎる事などあるのか?」
田村が狂って行くのを喜ぶように微笑んでから答える。
「形にこだわるのはこの世界では通用しないだろう。瞑想装置たる村瀬が 制御しているワームホールならばそれも有りではないか。違うのか?」
僕は恐怖に頬を引き攣らせ言った。
「ならばあの悲鳴はこのワームホールとしての鮫が上げているものなのか?」
田村が否定する。
「いや違うと思う。あれは罠の一部たる成美ちゃんが透明な鮫をコントロールして俺達を威嚇しているのだと思う」
僕は訝る。
「何故威嚇などする必要があるのだ。ダイレクトに襲えばいいだけの話しなのに」
田村が自己憐憫するように苦笑いしてから言った。
「村瀬は俺達をいたぶるのを楽しんでいるのさ」




