望郷星128
この言葉を聞いた途端僕は唐突にいたたまれず寂寥たる気持ちになり、熱いものが込み上げて来て涙ぐんでしまった。
彼女が続ける。
「と言うか私は行かず後家とか世間で陰口を叩かれながらも、お金は勿論ですが心を安っぽく売らないと言うところにプライドを持って生きて来たわけです。だから私は貴方の言う代用品と言う言葉には憤慨し怒りを覚えたのですが、貴方にはそれに余りある魅力があり、矛盾してはいますが、それで怒りは鎮まり、こうして飲み友達として盃を交わしているわけですが、これもお酒が取り持つ縁ならば、私達の仲人は怒り緩衝材たるお酒なのかもしれませんね」
僕は苦笑いしてから言った。
「酒で怒りを麻痺させて、好奇心を満たす娯楽を貴女は見付けたのですね」
艶っぽく彼女が微笑み言った。
「ええ、そうですね。これはお酒を介した言わばお見合い格闘技であり、戦略を練って戦場に臨み、勝つか負けるかの戦いが刺激的で面白く痛快そのものですね」
この言葉を聞いた途端僕は唐突にいたたまれず寂寥たる気持ちになり、熱いものが込み上げて来て涙ぐんでしまった。
彼女がすかさずその涙を見逃さず指摘して来た。
「どうしたのですか。成美ちゃんの事を思い出して寂しくなったのですか?」
僕は内心母さんの病気が心配で仕方ないのに、酒など飲んで異性を口説いている自分が情けなくなり、その結果のいたたまれない寂寥感だったのだが、それは当然口には出せず、涙を拭いしきりに頷き答えた。
「そうですね。成美ちゃんとは一度も酒なんか酌み交わしてはいませんから、急に寂しくて涙が出て来てしまいました。すいません」
彼女が微笑み言った。
「いいですよ。酔い潰れるよりは、泣き上戸の方がずっと増しだから、泣きたければどんどん遠慮なく泣いて下さい」




