望郷星124
「でもあんた、先方の未亡人に病気の母親の為に結婚したいとは、口が裂けても言っては駄目よ」と母さんは言った。
僕は心配して眉をひそめてから尋ねた。
「母さん、たがら俺に見合いとかさせて、孫の顔を早く見たいと言ったのか」
母さんが転じて快活な口調で答える。
「まあそんなところだけれどもね。いずれにしろ人は遅かれ早かれ一度は死ぬものだし、あんたの晴れ姿を見て孫の顔を見たいと言うのはこれ又ごく一般の親心だしね。所謂老婆心さ」
僕は苦笑いしてから言った。
「母さんはまだ老婆ではないじゃないか?」
母さんがばつ悪そうにそぞろ苦笑いしてから答える。
「まあそうだけれどもね。私はあんたの親には変わりないじゃないか」
僕は決意を新たにするように大きく頷き言った。
「分かった。俺、母さんの期待に沿えるように全力で頑張るよ」
ここで母さんが僕を刺すように鋭く睨みつけ言った。
「でもあんた、先方の未亡人に病気の母親の為に結婚したいとは、口が裂けても言っては駄目よ」
僕は仰せの通りにと言った感じで恭しく頷き答えた。
「分かった。それが禁句ならば口が裂けても俺言わないから、母さん心配しないでくれ」




